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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)5048号 判決

判   決

原告

中村嶋

右訴訟代理人弁護士

早瀬川武

被告

株式会社中村商店

右代表者代表取締役

中村光三

右訴訟代理人弁護士

淵上義一

右当事者間の昭和三六年(ワ)第五、〇四八号株主総会決議不存在確認請求事件につき、次のとおり判決する。

主文

被告会社が、昭和三六年五月一〇日開催の株主総会においてなした「取締役中村元治、同中村嶋、同梅沢義一、同倉沢隆及び監査役小林好覚を解任する。

中村光三、中村嶋、中村元治、小川英雄、松尾勇を取締役に、石川左近を監査役に選任する」旨の決議が存在しないことを確認する。訴訟費用は被告会社の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として

一、被告会社は資源回収、町内標識案内板の製作等を目的とする会社で、原告は被告会社の三〇〇株の株主であり、昭和三六年二月一八日その取締役に選任された。

二、被告会社は、昭和三六年五月一〇日午後六時、東京都中央区京橋三丁目七番地三京物産株式会社において臨時株主総会を開催し、主文第一項同旨の決議をなし、同月二三日その旨の登記手続をなした。

三、然しながら右総会は、当時の代表取締役である中村元治が招集したものではなく、取締役でも従つて代表取締役でもない中村光三が招集してなしたものであるから、右総会は適法なものではなく、従つて右決議は不存在である。」と述べ、被告の管轄違の抗弁に対し、「被告の主張する昭和三六年七月一日の本店移転の決議は不存在である。即ち右決議をなした株主総会は、中村光三が招集してなしたものであるが、上述のとおり昭和三六年五月一〇日同人を取締役に選任した決議は、不存在であるから、右総会招集当時は同人が代表取締役である筈がなく、中村元治が依然代表取締役であつたのであるから、中村元治の招集しない右総会における本店移転の決議は不存在というべきである。従つて仮にその旨の登記がなされていても、本訴提起当時被告会社の本店は、東京都港区赤坂青山南町六丁目一四〇番地にあつたものである。仮にこれが認められないとしても、本件移転の登記がなされたのは昭和三六年七月五日であるが、本訴はその前である同月三日に提起されたもので、当時原告はその事実は知らなかつたものであるから、本店移転をもつて原告に対抗することはできない」と述べ、

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として「被告会社は、昭和三六年七月一日の株主総会においてその本店を東京都港区赤坂青山南町六丁目一四〇番地から山梨県山梨市南一、六一六番地に移転した。然るに本訴は右移転後の同年七月三日に提起されたものであるから、東京地方裁判所は管轄権を有しない。」もつとも右総会が、原告主張のとおり、中村光三の招集したもので、中村元治の招集したものでないことは認める。と述べ、

本案に対し「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、請求原因に対しその第三項を否認しその余を認めた。

≪証拠省略≫

理由

一、管轄について

被告が主張する昭和三六年七月一日の株主総会は、中村元治が招集したものではなく中村光三の招集にかかるものであることは当事者間に争いがない。

ところで後に判示するとおり、昭和三六年二月一八日以来中村元治が被告会社の代表取締役であつて、中村光三が取締役に選任されたとする同年五月一〇日の決議は不存在なのであるから、同人が被告会社の代表取締役となる筈がない。従つて同年七月一日の本店移転の決議は、代表取締役でない者の招集にかかる総会におけるものであるから、これまた不存在というべきである。

本来会社に対して決議の効力を争う訴訟における管轄は、登記簿の記載によるべきではなく、あくまで実体上の本店所在地によつて律すべきものであるところ、前判示のとおり右本店移転の決議は不存在であるから、本訴提起当時被告会社の本店は従前どおり東京都港区赤坂青山南町六丁目一四〇番地にあつたものというべきである。従つて当裁判所は本訴について管轄権を有する。

二、本案について

請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。とすれば本件の争いは昭和三六年五月一〇日の株主総会が正当な招集権者によつて招集されたか否かに帰する。

よつて判断するに(証拠―省略)よれば、昭和三六年二月一八日中村元治が被告会社の代表取締役となり、その業務を担当してきたところ、同人の知らないうちに、取締役でも従つて代表取締役でもない中村光三が突如同年五月一〇日、東京都中央区京橋三丁目所在の三京物産株式会社において被告会社の株主総会を開催し、主文記載の決議をなしたものであることが認められる。

かように本件株主総会は、招集権のない中村光三によつて招集されたものであるから、被告会社の株主総会ということはできないのであるから本件決議は不存在である。従つてこれか不存在であることの確認を求める本件請求は理由がある。

よつて原告の請求を認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 伊 東 秀 郎

裁判官 近 藤 和 義

裁判官 宍 戸 達 徳

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